■ 戦闘艦の「対応防御」について
【コラム1】

 資料を眺めていて、ふと思いついたことを徒然に書き記したものです。

 第二次世界大戦までの艦艇について調べていると、資料などでよく「戦艦の設計に当たって、基本的に自艦の攻撃に対して防御可能な装甲を張る。これを対応防御という」などと書かれているのを目にします。今回はこの“対応防御”について徒然と書いてみたいと思います。

 軍艦とは、砲(矛)を持ち、装甲(盾)を張った“戦闘艦”の事である──少なくともこれは、第二次世界大戦までは正しいものでした。現在では一撃必殺の長距離ミサイル(矛)と、遠距離検索・誘導レーダーによる迎撃システム(盾)に取って代わられているものの、ほんの半世紀前までは電子兵器の性能限界から目視出来る距離においての砲撃戦で戦闘の勝敗が決していたのです(ここでは「航空攻撃」は取り上げません)。

 さて。では、軍艦の設計コンセプトをどこにおけば、もっとも有力なものとなるのでしょうか?
 ここで、前述の「対応防御」という考えが登場してきます。
 では、どうしてこのような設計基準がもっとも有力な方策と考えられているのでしょうか?

 多くの場合は、「自分の攻撃に耐えられれば、相手の攻撃も耐えられるから」と解説されていますが、それは説明が不足しています。
 常識的にいうなら、効果的な設計とは「敵艦の装甲を貫通する砲を積み、敵艦の砲弾をはじく装甲を持つこと」であるべきです。
 ところが現実にはそうではなく、「自分の砲で自分を撃って耐えられる設計」という奇妙な目標が与えられています。

 これには、以下の理由が存在しています。

 軍艦には自分の想定戦闘距離があります。たとえば、高初速砲弾を放つ砲を持っている軍艦は比較的近距離での戦闘が有利ですし、重量級の砲弾を撃つなら遠距離からの大落下攻撃を得意とします。
 逆に言えば、そういった軍艦はその距離での作戦を想定していると言えます。

 ところが、仮にそのような距離で敵艦の攻撃により簡単に損害を受けてしまうようならどうでしょうか?
 有利に戦うことなど出来るはずがありません。
 そこで、自分に最も優位な距離で戦闘を行ったとき、自分に十分な防御力を持っていることが必要になるのです。

 もちろん、あらゆる距離からの攻撃を防ぐように防御を強化することも可能ですが、軍艦とはまずもって艦隊(部隊──海軍兵力)におけるシステムの一部であり、求められる性能以外は切り捨てて(結果、予算を浮かせて等)他のもの(補助艦の数とか)を強化した方がトータルでは強力になります。
 と言うことで、このような方策は採られることがほとんどありません。

 さて、当然ながら、他国の戦艦は自艦とはまた違った想定距離を持っています。これは双方とも海軍に対する考えの違いがあるからです。ということは、相手の想定距離とは違う距離で戦闘を行うなら敵艦の攻撃力は十全な物とはなりません。
 そして、自分の攻撃は十全に発揮できる。

 そう。「対応防御」の根幹には、こういった考えが存在するのです。

 では、もし相手が、自分と全く同じ想定距離での戦闘を望む戦艦を作っていたら?

 その時は、自分の攻撃に耐えられる防御力を有していれば、相手の攻撃を防ぐ事が可能です。なぜなら、自分と相手の想定距離が同じなら、つまりは同じ武装を装備していると考えてよいのですから。


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