■特 殊 艦
Special Ship
◇国家の威信
 特殊艦は軍艦の中でも特に特徴ある性能を有する艦のことである。そのため、それぞれに一項を設けて解説することとした。
 正確には、戦艦や巡洋艦といった“艦種”ではなく、特別な性能を有する“艦の特徴”による区別であるため、各級はTypeではなくClassで示している。

 

■弩級艦        

DREADNOUGHT class

グロフス級弩級戦艦 弩級艦とは、艦隊指揮用に特化された能力を持つ特殊艦である。
 そのため弩級艦は指揮艦──フラグシップであるため、強力な通信装備と高い情報処理能力が与えられている。
 当然ながら、戦闘において指揮艦が簡単に沈んでしまうのは問題があるため、通常は防御力の高い(高コストな)大型艦として建造される事が大半である。こうしたことから建造数は少なく、結果的にキャピタル・シップ(象徴艦)としての役目を担うことが多い。
 この種の艦は艦隊決戦においては確かに有効であり、強力な指揮力によって艦隊全体の能力を大きく高めることが出来る。しかし、旗艦用としてわざわざコスト高な特殊艦を建造するより通常型の戦艦を量産した方が宇宙軍全体の戦力を向上させることが出来るという現実もあり、どちらの方針を採用するかは一長一短といえる。
 このため、弩級艦を採用するかどうかはその国家の置かれた軍事的状況に左右されている。
 現在、弩級艦に含まれる軍艦としてはデトロワの〈グロフス〉級戦艦、デュミナスの〈オルテウス〉級、オルキスの〈バーナント〉級が存在するのみである。

 

■要塞艦        

FORTRESS SHIP/FS

ボルザック級要塞艦 戦艦に含まれる軍艦だが、その大きさが宇宙要塞に匹敵する巨体であるため“要塞艦”と呼ばれている。
 自走能力があるため、動けない通常要塞と比べものにならないほど高い戦闘能力を有するが、建造コスト、維持コストが桁外れであり、同クラス艦の建造は現実的ではないといわれている。
 デュミナス戦役と二度の大戦で星系内の全ての要塞艦は戦没し、更にはフェール条約で建造が禁止されたため、現在、要塞艦は一隻も残っていない。

 

■翅級艦(新世代艦)        

SHIRGNORM class

シルグノーム級巡洋戦艦 翅級艦──〈シルグノーム〉級シップは、亜空間ドライブを搭載した恒星間航行能力を有する軍艦のことである。
 この名称は元々ラファリエスの開発した〈シルグノーム〉級巡洋戦艦の事を指していたが、同艦が星系初の亜空間ドライブ搭載実用艦であったことから革新的な性能を示す艦を記念して、以後に建造された同種の機構を備える宇宙船全てをシルグノーム級──“翅”級船(軍艦なら“翅”級艦)と呼ぶ様になっている。
 翅級艦は搭載した亜空間ドライブによって亜空間ゲートを使用することなしに単独でワープが可能であり、従来の常識を越える長距離高速航行能力を有する。
 しかし、技術史的には画期的といえる翅級艦も、ラファリエスの野心の道具として星系全域を戦乱の渦に巻き込み、幾多の悲劇を引き起こした。

 

コラム「亜空間ドライブ──翅級艦、その後──」

 ラファリエスの降伏によって第二次星系大戦が終結したとき、艦載用亜空間ドライブの存在は星系各国に知れ渡っており、一部の戦勝国による技術独占が行われることなく各国に翅級艦の建造技術が流出することとなった。
 その上、フェール条約で亜空間ドライブを搭載した軍艦の建造は禁止されなかったものの、大型艦の新造を一五年にわたって禁止したことで事実上軍事転用は先送りされる事となった。
 また、戦後各国では悲惨な全面戦争の経験から艦載用亜空間ドライブの全面的な軍事利用に対し反対が集まった。
 こうした状況から、各国は最終的に艦載亜空間ドライブ建造技術を民間に開放することとなる。
 戦後、初めて星系で建造された翅級船は、平和目的のために建造された非武装船であった。船の名は〈エレミア〉。エレミア星系外宇宙統一開拓プロジェクトによって必要とされた開拓移民団用の翅級移民船であった。